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大阪地方裁判所 昭和28年(行)15号 判決 1956年4月16日

原告 大阪相互タクシー株式会社

被告 大阪国税局長

訴訟代理人 杉本良吉 外四名

主文

原告の請求を棄却する

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人等は「被告が原告に対し昭和二十八年四月十日附通知によりなした、原告の昭和二十二年十一月二十一日より昭和二十三年十一月二十日に至る事業年度分所得金額に対する審査決定による普通所得金額二千四百五十九万九千十九円、超過所得金額千七百九十一万三千三百一円中、普通所得金額二千二百四十九万五千四百三十九円、超過所得金額千五百八十万九千七百二十一円を夫々超過する部分を取消す訴訟費用は被告の負担とする」旨の判決を求め、その請求の原因として、原告は肩書の場所に本店を置き自動車による旅客運輸を業とする株式会社であるが、昭和二十四年一月二十八日訴外城東税務署長に対し、昭和二十二年十一月二十一日より昭和二十三年十一月二十日に至る事業年度分の普通所得金額を金二千二百三十四万二千二百八十一円、超過所得金額を金千五百八十九万七千二百三十八円と申告した。ところが、右訴外税務署長から昭和二十七年六月三十日附所得金額更正通知書をもつて、右原告の申告にかかる普通所得金額を金二千六百六十八万三千六百六十七円に、超過所得金額を金千九百九十九万七千干九百四十九円に夫々再更正した旨の通知を受けた。そこで原告は同年七月三十日被告に対し右再更正処分を不服として審査の請求をしたところ、被告から昭和二十八年四月十日附書面で普通所得金額を金二千四百五十九万九千十九円に、超過所得金額を金千七百九十一万三千三百一円に審査決定した旨の通知を受けた。しかしながら、その後原告において詳細に検討した結果、原告の事務上の手落もあり前記事業年度分の普通所得金額は金二千二百四十九万五千四百三十九円、超過所得金額は金千五百八十万九千七百二十一円が正確なものであることが判明した。従つて原告の右正確な所得金額と被告の審査決定による所得金額との差額は普通所得金額及び超過所得金額において各金二百十万三千五百八十円、合計四百二十万七百六十円である。そこで、原告は被告が何故に右実際の所得金額を超える審査決定をしたかについて調査したところ、右は被告が原告に対し架空の株式譲渡益を認定したことに基くものであることが判明した。よつて被告の前記審査決定による認定所得金額中普通所得金額において金二千二百四十九万五千四百三十九円、超過所得金額において金千五百八十万九千七百二十一円を夫々超過する部分は違法であるから、この部分の取消を求めるために本訴に及んだと述べ、

被告の主張事実中、各銘柄会社の増資決議日、原告が各銘柄会社の新株引受権を取得したこと、第三者指名権の保持乃至その行使及び各払込期日における新株の時価、従つて新株引受権の無償譲渡及び第三者指名権の行使による経済的利益の存在乃至その価額の点を除く爾余の部分はこれを認めるが、訴外多田清が訴外北越製紙株式会社の新株を取得したのは原告がいわゆる第三者指名権を行使したからではなく、右訴外会社が右訴外人に縁故割当をしたがためであり、また、払込期日における各新株の時価はいずれも不知である。旧独禁法第十条によれば事業会社は原則として株式の取得を禁じられているのであるが、この株式の中には新株を含んでいること勿論であり、同規定は効力規定と解せられるから事業会社の新株の取得行為は無効であること当然である。そして新株引受権とは新株発行の際その引受を請求する権利であるが、新株引受権は引受者自身による新株の取得によつて始めて目的を達し得るのであるから、新株の取得できない新株引受権なる概念は法律上認め難く、結局原告は本件新株引受権も取得できないことになる。また、新株引受権は株主たる地位に対し附与されるものであつて、株主権の当然の内容をなすものではないし、増資会社に対して割当の申出をなし得る者はその会社に対し株主たる資格を有する者でなければならないから、新株引受権を与えらるべき割当基準日における株主とは増資会社に対する関係においても、当事者間においても株式名簿上の株主であつて親株の実質上の株主ではない。しかも増資決議において割当基準日を定めた場合には、新株発行の決議は割当基準日において効力を生ずるという条件の下に新株引受権を附与する旨の決議に外ならないから、基準日の到来により始めて効力を生じ、当該基準日の株主に対して新株引受権を生ずる。従つて各割当基準日の株式名簿上の株主である。訴外敷島紡績株式会社においては訴外黒田辰五郎、訴外奈良電気鉄道株式会社においては訴外前田重俊が割当基準日に各その新株引受権を当然かつ原始的に取得したものというべきであり、また、縁故割当であるが故に訴外北越製紙株式会社における訴外多田清が右同様その割当基準日に新株引受権を原始的に取得したことは勿論であると述べ、

被告指定代理人等は主文同旨の判決を求め、答弁として、原告の請求原因事実中、原告主張の事業年度分の原告の正確な普通所得金額が金二千二百四十九万五千四百三十九円、超過所得金額が金千五百八十万九千七百二十一円であつて被告の審査決定における各所得金額が右原告の主張金額より金二百十万三千五百八十円を各超過しているのは被告が原告に対し架空の株式譲渡益を認定したことに基くものであるとの点を除き爾余の部分はすべてこれを認める。原告は次の如き新株引受権の無償譲渡益金二百十万三千五百八十円を取得したから被告の審査決定は適法である。すなわち、原告は次のような銘柄の株式を所有していたところ各銘柄会社は夫々増資決議をなした。

<表 省略>

ところが、当時私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下独禁法という)旧第十条(同法第百一条、昭和二十二年政令第一四二号によつて同年九月二十日施行)により金融業以外の事業を営む会社は他の会社の株式(議決権のない株式を除く)を取得してはならないことになつており、かつ、右増資決議による新株引受権は特別法により単独譲渡を許されていないものであつたので、原告は右敷島紡績株式会社については昭和二十三年六月二十四日その株主たる名義を原告会社の専務取締役訴外黒田辰五郎に奈良電気鉄道株式会社については同年三月十三日右同様株式名義を原告会社監査役訴外前田重俊に夫々形式上変更し、また北越製紙株式会社については、いわゆる第三者指名権を行使し原告会社の代表取締役訴外多田清を指定し、右三名の訴外人重役は新株払込資金を原告から借用して右敷島紡績株式会社については昭和二十三年七月二十六日、北越製紙株式会社については同年五月二十七日、奈良電気鉄道株式会社については同年四月二十九日に夫々新株の払込を了した。独禁法の右規定は私的独占や不当な取引制限等を防止するための予防措置として事業会社の将来における株式取得を禁止したものであつて、事業会社が従来適法に所有してきた株主権に基いて取得すべき増資新株の引受権自体の取得までも禁止して事業会社が当然受け得べき利益の喪失を強制することを意図したものではなく、このことは議決権のない株式の取得が禁止されていない点から見ても明らかである。従つて原告は右各銘柄会社の増資決議により各新株引受権なる経済的利益を保有するに至つたものである。(また第三者指名権が経済的利益なることは論を俟たない。)そして課税の対象としての所得は実現された利益に限ることは課税所得の本質に由来する基本原則であるところ、原告は前記親株の形式的名義書換又は第三者指名権の行使によつて右利益を具体化し、更に、右訴外人重役等は各払込を完了したので該利益は原告の益金として課税標準の計算上捕捉できるに至つた。そこで右新株引受権の無償譲渡、及びこれと同一効果を有する第三者指名権の行使による経済的利益の数額は如何にというに、右各銘柄会社の払込期日における新株の一株の価格は、敷島紡績株式会社においては金百五十円、北越製紙株式会社においては金七十五円、奈良電気鉄道株式会社においては金百二十四円であるから、夫々、新株の価額より前記一株の払込金額を差引いた残額に前記親株数及び割当率を乗ずると敷島紡績株式会社に関する右無償譲渡益総額は金百七十万円、北越製紙株式会社に関する右指名権の行使総益額は金十八万七千五百円、奈良電気株式会社に関する無償譲渡益額は金二十一万六千八十円、以上総合計金二百十万三千五百八十円となる。従つて被告の本件審査決定には何等違法な点がないと述べた。

<立証 省略>

理由

原告は肩書の場所に本店を置き自動軍による旅客運輸を業とする事業会社であること、昭和二十四年一月二十八日原告主張の事業年度分の所得金額を申告したところ昭和二十七年六月三十日附で右所得金額の再更正処分を受けたこと、同年七月三十日被告に対し右更正処分を不服として審査の請求をなしたところ昭和二十八年七月十日附通知書をもつて被告は原告の普通所得金額を金二千四百五十九万九千十九円に、超過所得金額を金千七百九十一万三千三百一円に審査決定したこと、原告は被告が主張するような銘柄の各様式を有していたところ該各銘柄会社は増資決議をなし被告主張通りの割当基準日、割当率、申込期日、払込期日、新株一株の払込金額等を決定したこと、右事業年度当時独禁法上原告は右増資新株を取得できない関係にあり、かつ右増資決議により与えられる新株引受権は特別法により単独譲渡の方法を許されていなかつたので、原告は被告主張の各訴外人にその新株を取得させる目的で訴外敷島紡績株式会社及び奈良電気鉄道株式会社については、被告主張の各日にその株主名簿上の原告名義をその主張のように各訴外人に形式上書換えてやつて各新株の割当を受けさせ、また、北越製紙株式会社については、訴外多田清が割当を受けたこと、右各訴外人は被告主張の日に夫々払込を了して新株主となつたこと、前記審査決定による各認定所得金額中金二百十万三千五百八十円の認定の基礎は、敷島紡績株式会社及び奈良電気株式会社については親株の名義書換の方法によつて原告が新株引受権を訴外人に無償譲渡し、また北越製紙株式会社については原告がいわゆる第三者指名権(旧株主が新株引受権を第三者に譲渡した場合増資会社がその譲渡を予め承認することを承諾している法律関係において旧株主が新株引受権を第三者に譲渡することを第三者指名権と略称していることは当事者に争いないところである)の行使によつて新株引受権の無償譲渡と同一結果を具現させたとし、これらの事実を把えて原告は右訴外人三名に新株引受権を賞与として利益処分したものと認定したことにあることは、いずれも当事者間に争がない。そして右各訴外会社の増資決議日が被告主張の各日であることについては原告の明らかに争わず且つ弁論の全趣旨に徴するもこれを争つているとは認められないからこれを自白したものと看做し、真正に成立したことについて争がない乙第九号証の一乃至三によると原告は訴外北越製紙株式会社からその増資決議後原告会社の割当を受くべき新株につきいわゆる第三者指名権を与えられ訴外多田清をその新株引受人として指名したことが認められる。

(一)  そこで先ず原告会社は各訴外会社の増資決議により被告が主張するような新株引受権か取得したか否かについて判断する。

(1)  独禁法旧第十条の解釈について

(イ)  独禁法旧第十条(同法第百一条昭和二十二年政令第一四二号によつて同年九月二十日施行)は金融業以外の事業を営む会社は他の会社の株式(議決権のない株式を除く)を取得してはならない旨を規定し、原告会社が同法条の適用を受けて前記訴外各増資会社の新株を取得できない立場にあつたこと、及び右規定はその趣旨に鑑みて効力規定であることは認められるが、同規定の基本精神は被告主張の如く私的独占や不当な取引の制限等を防止するための予防的措置として単に事業会社の将来における株式取得を禁止したものであつて事業会社が従来適法に保有してきた株主たる地位に基き他の会社の増資決議により一般に当然受け得べき経済的利益の喪失までも強制する意図を有しない。

(ロ)  増資決議によりて親株主に与えられた新株引受権は割当基準日において具体化するまでは一種の期待権的な存在であるが親株主たる地位について発生し、また、その地位に附随して移転し得るものであり、且つ新株の割当を受け得る権利としての性質上その保有者の個性に対する依存度が極めて薄くその保有者、或はその行使者が何人であるかはその本質を決定する要素ではない。

(ハ)  前示の如く新株引受権は親株主の地位に附随して一般的に譲渡の対象となるところ独禁法はこれが譲渡性を剥奪していない。

以上の諸点を考慮するときは、独禁法の右規定は適用事業会社が新株引受権の保有自体を否定せず、唯、その行使のみを禁じていたものと解するが妥当である。今本件についてみると、原告は前記訴外各会社の増資決議の当時原告の保有する各株式につき所定の割当基準日の割当の実施により具体化すべき新株引受権を取得したが独禁法の規定により具体的割当による新株引受権の行使を制限されていたものと解すべきである。

(2)  次に割当基準日において現実に割当を受けることができるのは当日株主名簿に記載されている株主に限られ、たとえ株主名簿上の株主と実質上の株主とが異なる場合においてもその理を異にしないことは原告の主張する通りであるが、このような形式的株主と実質的株主とが分裂している場合には当事者間の関係においては割当の実施により具体化すべき新株引受権またはその実施により具体化した新株引受権(従つて新株引受権に伴う経済的利益)は本来実質的株主に帰属すべき性質のものであり、増資会社に対して新株引受権を行使した形式的株主は少くとも新株引受権に伴う経済的利益を実質的株主に返還しなければならないものである。従つてもし形式的株主が新株引受権を行使してこれに伴う経済的利益を保有したまま実質的株主に対しこれを返還しなくてもよいとすれば、それは両当事者間の内部関係において新株引受権及びこれに伴う経済的利益について実質的株主から形式的株主に対し売買贈与その他の法律上の原因による譲渡があつたものと認める外はない。

また増資会社より新株の割当を受けた株主が所謂第三者指名権の行使の結果右第三者をして自己に代つて新株引受権を行使せしめた場合においてはその第三者は少くとも株主が取得すべき新株引受による経済的利益を取得したことになるから、これを返還しなくてもよいとすれば、右経済的利益については株主から右第三者に対し売買贈与その他法律上の原因による譲渡があつたものと認める外ないこと前記の場合と何等結論を異にするものではない。

今本件についてみるに、原告が前記訴外各会社の増資決議当時その株主たる地位にあつたこと、右増資決議において割当基準日当日における株主に対し新株を割当てる旨が定められ原告はこれにより親株数と割当率に従い新株の割当を受ける権利を取得したこと、原告はかくして割当の実施により具体化すべき新株引受権を取得したが独禁法上その行使を制限されていたので訴外北越製紙株式会社以外の訴外会社に対する関係においては株主名簿上の形式的株主を被告主張の各訴外人名義に書換え依然として原告が実質的株主であつたこと。また訴外北越製紙株式会社に対する関係においては指名権行使の結果多田清をして新株引受権を行使せしめたことは前段認定の通りであるから、前者については新株引受権を行使した形式的株主である各訴外人と実質的株主である原告との内部関係においては各訴外人は原告に対し新株引受権の行使に伴う経済的利益を返還しなければならぬ関係にあると認むべきである。しかるに後段((二)(1) )認定のように原告が各訴外人に対し右経済的利益の返還講求の意思を抛棄していることはとりもなおさず原告から各訴外人に対し右経済的利益の無償譲渡があつたものと認定するに十分であるし、後者の場合においても、本件口頭弁論の全趣旨によると、原告から多田清に対し新株引受による経済的の舞償譲渡があつたものと認定する外はない。

(二)  次に法人税法上課税の対象となる所得とは各事業年度の総益金から総損金を控除した金額によるものであり、総益金とは法定除外利益以外の法人の純資産の増加となるべき一切の事実に基く収益その池の経済的利益すなわち財産及び財産価額の増加を指称する。そして法人の損益として徴税上把握する時期についてはいわゆる発生主義と実現主義とが考えられ法人企業の如くその規模が大であり且つ複雑化し多数の債権債務が併存する実状においては、原則として発生主義によることを妥当とすること勿論であるが、税務取扱の実際においてこの発生主義をそのまま適用するにおいては不合理な結果を生ずる場合もあるので事態に即応して合目的的にその適用の限界を考慮する必要がある、しからば新株引受権又は第三者指名権については如何というに、

(1)  期待権の一種としての新株引受権は割当てられるまでは親株主たる地位に附随しそれ自体として独立の存在価値を有しないので、親株を離れて徴税の対象となる利益に該当するか否か甚だ疑わしい。しかしながら、親株主たる地位に附随するが故にその発生は直ちに親株の価値の増加となつて表現されることは割当基準日において親株の権利落相場となることによるもうかがい知ることができるので、新株引受権は親株の価値の増加部分として徴税上把握すべきである。尤も親株の価値の増加部分は恰も値上げされた物資の場合と等しく増加価値の発生によつて直ちに徴税の対象とすべきでなく、記帳又はその処分等その実現を俟つて始めて課税対象として把握できるに至るものと解する。

今本件について見るに、前示の如く原告は訴外両会社の持株名義を被告主張の各訴外人に形式上書換えてやり各訴外人に新株の割当を受けさしたものであるが、これを新株引受権の移転の面から見ると、これら新株引受権を親株主たる地位から独立して無償譲渡したと同一結果になる。けだし原告は訴外人に対し株主名簿上の名義を単に書換えてやつたまでのことであつて実質上の株主は、なお原告であるから、これに附随する新株引受権の実質上の主体もまた原告なりというべきであるが、増資会社に対する関係においては新株引受権は株主名簿上の名義書換によつて訴外人に移転しており、かつ原告と訴外人との関係においても原告は各訴外人に新株の割当乃至引受を受けさせる目的で名義書換えをなし、新株引受権またはこれに伴う経済的利益の返還請求の意思を全く抛棄してしまつている以上課税上新株引受権のみの無償譲渡があつた場合と事実上同一であり、従つて親株の価値の増加という面から見ると右仮装的名義書換行為は実質上増加した親株の価値部分の処分行為であるから、親株の増加価値部分はこの時において具体化したものというべく、従つてこの時において徴税の対象として把握できるに至つたものと解せられる。

(2)  第三者指名権の行使の結果は新株引受権の譲渡の場合と同一効果を生ずるから同様の利益処分となるものと解する。そして原告が訴外北越製紙株式会社によつてこれが権利を与えられ、訴外多田清を指名したことは前述の通りであるから原告は同訴外人に対しこれに相当する経済的利益を譲渡処分したことは明白である。

(三)  次に処分利益金額はいくらかについて考える。

以上説示の如く実質的には名義書換行為をもつて新株引受権の単独譲渡と同一行為、従つて形式的には親株の価値増加部分の処分行為として把え、第三者指名権の行使も右に準じて考えたのであるが、しからば右処分行為によつて処分された利益額について考えるに新株引受権は所詮、新株の取得によつて窮極の目的を達するものであつて、新株引受権の価値は新株の価額を見越してのもの、いわば、観念的存在に過ぎず、結局払込によつて最后的に新株に転化し、その価値の中に体現される運命をもつものであるからその正確なる処分価額は払込を了し現実に新株主となつた時の新株の価格を基準とするを相当とするから払込期日における新株の価額から払込金額を控除した残額をもつて処分利益の価額であると認めるのが相当である。そして第三者指名権行使による利益処分額も右と同様であること勿論である。

さて、本件についてみるに、

(1)  訴外敷島紡績株式会社の払込日である昭和二十三年七月二十六日の新株一株の気配相場は真正に成立したことについて争がない乙第七号証の一によると金百五十円であるから右処分利益額は同金額より前示金二十五円の払込金額を控除した残りの金百二十五円に前示親株数六千八百と割当率二を乗じて算出した金百七十万円となり、

(2)  訴外奈良電気鉄道株式会社の同年五月一日、同月十五日の新株の気配相場は前顕乙第七月証の一と真正に成立したことについて争がない同第七号証の三によると金百二十四円であることがうかがわれるから前示払込日である同年四月二十九日の気配相場も同金額であるものと認められ、従つて処分利益額は同金額から前示金五十円の払込金額を控除した残りの金七十四円に前示親株数四千六百と割当率〇、七を乗ずると金二十一万六千八十円となり、

(3)  訴外北越製紙株式会社の払込日である同年五月二十七日の新株一株の気配相場は真正に威立したことについて争がない乙第二号証の四記載の名会社の株価と前顕乙第七号証の二記載の対応各会社の各株価を夫々月日別に対比すれば、少くとも金七十五円を下らないことがうかがわれるので、これに関する処分利益額は同金額から前示金五十円の払込金額を控除した上これに親株数五千と割当率一、五を乗ずれば金十八万七千五百円となる以上総合計二百十万三千五百八十円は前に説示した如く原告が訴外会社等の増資により取得し処分した利益の総額であつて、前示事業年度分の純資産の一部を構成すべきものであること勿論であるから、法人税法上の課税対象となり得ることが明白である。

(四)  尤も、被告の本件審査決定による前示各金二百十万三千五百八十円の所得金額は右新株引受権自体の無償譲渡及びこれと同一視する第三者指名権の行使による経済的利益を認定したものであるが、第三者指名権の行使は別として、新株引受権の無償譲渡による経済的利益については、当裁判所は実質的にはこれを認めながらも、形式においてはこれを親株の経済的価値の増加部分として理解するため、直接的には所得の種別が異ることになり結局において被告の本件審査決定は原告の主張する範囲で瑕疵あるものとして取消を免れ得ないのではないかとの疑を生ずる余地もないのではないが、課税標準は所得の種別より寧ろ所得の金額に重点があるのであつて、或る特定の所得を徴税の対象とした場合に当該所得か存在せず、却つて他の所得が存在した場合には徴税者の意思解釈として他の所得に対する課税処分として有効に解するのが合理的であるから本件被告の審査決定は結局原告が主張するが如き瑕疵を帯有しないことが明らかである。

よつて被告の本審査決定は適法であるから、原告の本訴請求は失当として棄却するものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 相賀照之 中島孝信 仲江利政)

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